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6月 13, 2024

価格差支援制度 - 水素社会推進法の成立


はじめに

水素等の価格差支援制度に関して、昨年12月6日に公表された『中間とりまとめ』を踏まえ、前回のクライアントアラート(以下「前回アラート」)を掲載してから約半年が経過した。この間に、内閣は本年2月に同制度について定めた『脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案』(以下「水素社会推進法案」)を閣議決定した後、本国会に提出し、同法案は衆参両院で可決され、5月17日に同法が成立した(以下「水素社会推進法」又は「同法」)。

同法は、その成立後、5月24日に公布された。同法は「公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」(同法附則第1条)旨定められているため、遅くとも本年11月24までに施行されることになるが、以下で考察する通り、同法施行のタイミングは秋まで待つことなく、夏頃になるものと考えられる。

なお、『中間とりまとめ』において、「水素等」は、水素に加えその化合物であるアンモニア、合成メタン、合成燃料等をさすものとされていたが、同法においては、「水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるもの」と定められ(同法第2条第1項)、詳細は今後策定される経済産業省令に委任されている。この点についての変更は現時点では見込まれていないが、省令の内容を確認する必要があり、本稿で用いる「水素等」もその限りで不確定なものと理解されたい。

 水素社会推進法の概要

同法の章立て及び対象条文は以下の通りである。

価格差支援制度との関係で最も関係が深い章は、上記黄色でハイライトした第3章及び第4章で、具体的なプロセスとしては、申請事業者が事業計画を作成して提出し、主務大臣からその認定を受けた場合には、助成金(その他の法規制に関する特例措置を含む)を受けることができるという流れになる。

今後の流れについて

経済産業大臣は、本年の夏頃から事業者による申請の受け付けを始め、年内の支援開始を目指す考えを示しており、かかるタイムラインが現時点での目標となっている。これに間に合わせるためには、本年の夏ごろまでには同法が施行されている必要がある。これを前提に考えると、現在、経済産業省は(1) 同法に基づく基本方針の準備、並びに(2) 同法を施行するための施行規則及び申請を開始するための細則を定めた募集要項の準備を現在進めているものと考えられ、また、JOGMECは(3) 助成金の交付手続・条件等の作成を進めているものと考えられる。

 (1) 基本方針

経済産業大臣は、同法に基づき、基本方針を策定することとされており、当該方針には、主に、①低炭素水素等の供給・利用に関する意義・目標、②GX実現に向けて重点的に実施すべき内容、③低炭素水素等の自立的な供給に向けた取組等を記載することとされている(同法第3条)。

国及び地方公共団体は、かかる基本方針に即して、水素等の供給及び利用の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するものと定められており(同法第4条・第5条)、また、関連事業者はかかる基本方針に即して当該施策に協力し、投資・事業活動を行うものと定められている(同法第6条)。

経済産業省は、基本方針案の策定後、同案をパブリックコメントに付し、事業者からの意見聴取及びその結果を反映するための審議を経て、閣議決定を行い、最終的に基本方針の公表を行うことが見込まれる。逆算すると、6月中には当該基本方針案が発表される可能性が高く、経済産業省からのニュースには注意をしておく必要がある。 

 (2) 施行規則・募集要項

同法において『経済産業省令』で定めるとされている事項(『水素等』の定義、審査基準や助成内容の詳細を含む)については、経済産業省がこれを定めた同法施行規則を策定することが見込まれる。一般的な法施行のプロセスを前提にすると、同規則案の策定後、上記(1)基本方針と同時期にパブリックコメントに付され、その後夏頃に施行される可能が高い。

また、夏頃の申請開始のためには、施行規則以外にも、事業者が申請の準備を行うために必要となる募集要項も同じタイミングで公表される可能性が高い。

従って、今月から来月にかけて、経済産業省からの発表やパブリックコメントの情報を注視しておく必要がある。

(3) 助成金交付手続・条件等

前回アラートでも触れた通り、独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が助成金交付事業を担うことが明記された(同法第10条)。すなわち、事業計画の認定は、経済産業省が主導で行うが、認定を受けた事業者に対する助成金の交付はJOGMECが担うことになる。上記で述べた通り、助成金の交付条件(助成金の受給資格・要件、スキームその他の交付形態等)については、同法では規定されておらず、今後、JOGMECによる決定・発表を待つ必要がある。

最後に

水素社会推進法の成立・公布を受けて、認定制度の手続(資格要件や時間軸等)及び助成金の交付条件につき、関係事業者より多くの質問を受けるが、現在、認定制度や募集要項については経済産業省が、助成金の交付についてはJOGMECが、それぞれ準備を急ピッチで進めているものと考えられ、その全容は明らかにされていない。認定制度における評価方法については、『中間とりまとめ』をベースにするものとなることが予想されるが、詳細については、上記で述べた通り、次の公表を待つほかない。

もっとも、他の制度での実例を踏まえる限り、上記で触れた詳細等に関して今後公表されるものは全て日本語になる可能性が非常に高く、申請を検討している海外事業者においては、パートナーである国内事業者と連携して、詳細の検討を進める必要がある。認定制度及び助成金交付条件等の全容が見えた際に、本稿に続くアラートを出したいと思う。